令和8年の一級建築士「学科の試験」は、29,094人が受験し、7,619人が合格しました。合格率は26.2%です。

近年と比べても、学科合格者がかなり多い年になりました。

そうなると気になるのが、今年の「設計製図の試験」です。

学科合格者が大幅に増えれば、製図試験の受験者も増えます。

では、製図試験の合格者も同じように増えるのでしょうか。

普通に考えれば、

製図受験者数 × 過去の合格率

から、今年の合格者数をある程度予測できそうです。

ただ、過去の試験結果を見ていると、製図試験はそれほど単純ではないように見えます。

今回は、一級建築士の設計製図試験には、図面を詳細に確認できる答案数に一定の「採点キャパ」があるのではないか、という仮説から考えてみます。

※この記事で扱う「採点キャパ」は、公式に公表されている採点方法ではありません。過去の試験結果から考えた一つの仮説です。

製図受験者が増えても、合格者はそれほど増えていない

令和元年以降の設計製図試験を見てみます。

製図実受験者ランクⅠ=合格者合格率
R110,151人3,571人約35.2%
R211,035人3,796人34.4%
R310,499人3,765人35.9%
R410,509人3,473人33.0%
R510,238人3,401人33.2%
R611,306人3,010人26.6%
R711,381人3,988人35.0%

令和元年以降、製図試験の受験者数はおおむね1万人を超えています。

ところが合格者を見ると、約3,000~4,000人という範囲に収まっています。

受験者が増えたからといって、それに比例して合格者が増えているわけではありません。

ここから一つの疑問が出てきます。

なぜ製図試験の合格者数は、一定以上に増えないのでしょうか。

その理由の一つとして考えているのが、「図面を採点できる枚数」です。

製図試験は学科試験とは採点の性質が違う

学科試験であれば、基本的には問題ごとに正答が決まっています。

一方、製図試験では、答案として提出された図面について、空間構成、建築計画、構造計画、設備計画、法令への適合、図面相互の整合性などを確認する必要があります。

採点結果はランクⅠ~Ⅳに区分されます。

  • ランクⅠ:「知識及び技能」を有するもの
  • ランクⅡ:「知識及び技能」が不足しているもの
  • ランクⅢ:「知識及び技能」が著しく不足しているもの
  • ランクⅣ:設計条件及び要求図書に対する重大な不適合に該当するもの

このうち、ランクⅠのみが合格です。

ここで注目したいのが、ランクⅠとランクⅡです。

合格者ではなく「ランクⅠ+Ⅱ」を見てみる

製図試験の採点を考えるうえでは、合格者であるランクⅠだけを見るより、ランクⅠ+ランクⅡを見る方が重要なのではないかと考えています。

令和元年から令和7年について、公表されているランク構成比から人数を概算すると、次のようになります。

製図実受験者ランクⅠランクⅡ(概算)ランクⅠ+Ⅱ
R110,151人3,571人約441人約4,012人
R211,035人3,796人約618人約4,414人
R310,499人3,765人約661人約4,426人
R410,509人3,473人約641人約4,114人
R510,238人3,401人約215人約3,616人
R611,306人3,010人約170人約3,180人
R711,381人3,988人約182人約4,170人

※ランクⅡの人数は、公表されている構成比から算出した概算値です。令和元年は台風19号の影響で試験が2回に分かれているため、両試験分を合算しています。

一級建築士製図試験の受験者数とランクⅠ+Ⅱの推移
一級建築士製図試験の受験者数とランクⅠ+Ⅱの推移

ここが非常に興味深いところです。

製図試験には毎年、約10,000~11,000人が受験しています。

それに対してランクⅠ+Ⅱは、令和元年以降、約3,200~4,400人という範囲に収まっています。

7年間の平均では、およそ4,000人です。

「採点キャパ」があるのではないか

ここから先は仮説です。

製図試験では、すべての答案を最初から最後まで、まったく同じ密度で詳細に比較しているとは限らないのではないかと考えています。

例えばランクⅣには、要求図面の欠落や図面相互の重大な不整合、法令への重大な不適合など、比較的明確に確認できる不適合があります。

ランクⅢも、「知識及び技能が著しく不足しているもの」とされています。

一方で、本当に細かく確認する必要があるのは、ランクⅠなのか、ランクⅡなのかという答案ではないでしょうか。

合格水準に達しているのか。

計画上の問題をどこまで評価するのか。

複数の問題点を総合してランクⅠとするのか、ランクⅡとするのか。

この境界にある答案ほど、図面や記述を詳しく確認する必要があるはずです。

そこで、採点が概念的には次のような構造になっているのではないかと考えています。

全答案 ↓ ランクⅢ・Ⅳに相当する答案を判定 ↓ ランクⅠ・Ⅱとなる可能性のある答案を絞る ↓ その答案を詳細に確認 ↓ ランクⅠとⅡを決定

そして、この「詳細に確認できる答案数」に、実務上のキャパシティーがあるのではないかというのが今回の仮説です。

過去7年間を見る限り、その範囲が約3,000~4,500枚、中心として4,000枚前後なのではないかと考えています。

受験者が増えると、合格者ではなく「合格率」が動く?

この仮説が正しいとすると、製図試験の結果を見る方法も少し変わります。

一般的には、

受験者数 × 合格率 = 合格者数

と考えます。

しかし製図試験では、

一定数のランクⅠ・Ⅱ候補 ↓ その中からランクⅠを決定 ↓ 受験者数によって結果的に合格率が変わる

という構造になっている可能性があります。

実際、令和6年は11,306人が受験し、合格者は3,010人、合格率は26.6%でした。

翌令和7年は11,381人とほぼ同じ人数が受験していますが、合格者は3,988人、合格率は35.0%です。

一級建築士の設計製図試験は、毎年一定の合格率になる試験ではありません。

むしろ、合格者の絶対数が3,000~4,000人程度に収まっているという点の方が特徴的に見えます。

令和8年はどうなる?

令和8年の学科試験の合格者は、7,619人でした。

直近と比べても明らかに多い人数です。

学科合格者
R34,832人
R46,289人
R54,562人
R66,531人
R74,529人
R87,619人

さらに製図試験には、その年の学科合格者だけでなく、一定の条件を満たした過年度の学科合格者も受験します。

そのため今年の製図試験は、受験者数そのものがかなり増える可能性があります。

現時点では正式な実受験者数は分かりませんが、過年度受験者を含めると、12,000人台になる可能性も考えられます。

仮に12,500人が受験したら?

例えば、今年の製図実受験者を12,500人と仮定します。

過去の合格率35%をそのまま当てはめれば、

12,500 × 35% = 4,375人

が合格する計算です。

しかし、今回考えた「採点キャパ」仮説では少し違います。

仮にランクⅠ+Ⅱがこれまでと同様、約4,000人だったとします。

そのうちランクⅡが200~300人程度なら、ランクⅠ=約3,700~3,800人です。

12,500人受験なら、合格率は約30%になります。

つまり今年、製図受験者が大幅に増えたとしても、

合格者数がそのまま大幅に増えるのではなく、合格率が下がる

という結果になる可能性があります。

令和8年は、この仮説を確認できる年になる

もちろん、今回の話はあくまで仮説です。

公式には、

「ランクⅠ・Ⅱまで絞って詳細に採点している」

とも、

「詳細に採点できる答案数は4,000枚程度である」

とも公表されていません。

そのため、製図試験には4,000枚程度の採点上限があると断定することはできません。

ただし、令和元年から令和7年までの7年間、受験者数が変動しているにもかかわらず、ランクⅠ+Ⅱがおおむね4,000人前後に収まっているという結果は非常に興味深いものです。

そして令和8年は、学科合格者が7,619人まで増えました。

もし今年、製図受験者が大幅に増えたにもかかわらず、ランクⅠ+Ⅱが再び4,000人前後に収まるのであれば、この仮説を考えるうえで重要なデータになります。

今年の一級建築士製図試験では、合格率だけではなく、

「ランクⅠ+Ⅱが何人になったのか」

にも注目してみたいと思います。

参考資料