令和8年の一級建築士設計製図試験「ホテル」。

私は、今年の試験は難易度が高かったと考えています。

ただし、エスキスそのものが極端に難しかったという意味ではありません。

自由度の高い計画、作図・記述の作業量、そして重大なミスにつながりかねない条件。

これらを6時間30分で処理し、図面を完成させることが難しい試験だったのではないでしょうか。

この記事では、令和8年の試験で何が難しかったのか、そして何を落としてはいけなかったのかを、5つのポイントから整理します。

1. 北側公園の延焼ラインと防火設備

今回の敷地図には、北側公園が建築基準法第2条第六号イに該当しないことが明記されていました。

つまり、北側公園について、公園であることを理由に延焼のおそれのある部分を除外する扱いはできません。

しかし、問題はこの条件に気づけたかどうかだけではありません。

北側の特殊な条件に意識が集中し、その後の防火設備の計画や記載がおろそかになる。東側隣地境界線や西側道路からの延焼ラインの確認が抜けてしまう。

特殊な条件に気づいていても、その後の処理で重大なミスをしてしまう。

今回、特に注意が必要だったポイントだと考えています。

延焼ラインと防火設備の確認図。北側公園に加え、東側・西側の判定や開口部の防火設備の確認を示した模式図
延焼ラインと防火設備の確認図。北側公園に加え、東側・西側の判定や開口部の防火設備の確認を示した模式図

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※図は確認の考え方を示した模式図であり、本試験の敷地・建物配置や延焼ラインの位置を厳密に再現したものではありません。

2. 主たる階段の段数と円滑化誘導基準

今回の課題では、既存チャペルとの接続に伴い、既存部のFLを考慮した階高の設定が必要でした。

一方で、主たる階段には建築物移動等円滑化誘導基準が求められています。

例えば、増築部の階高を4,300mmに設定した場合、蹴上げ160mm以下とするには、最低27蹴上げが必要です。

  • 26蹴上げ:4,300 ÷ 26 ≒ 165.4mm → 蹴上げ160mm以下を満たさない
  • 27蹴上げ:4,300 ÷ 27 ≒ 159.3mm → 蹴上げ160mm以下を満たす
階高4,300mmの階段で、26蹴上げは約165.4mm、27蹴上げは約159.3mmとなる比較図
階高4,300mmの階段で、26蹴上げは約165.4mm、27蹴上げは約159.3mmとなる比較図

階段の図を拡大して見る

※上記は蹴上げ高さの計算例です。階段幅や踏面など、ほかの基準も別途満たす必要があります。

既存部との床高を合わせることに気を取られ、階段の段数を間違えてしまう。

一つの条件を成立させても、関連する別の条件で不適合になる可能性がある。

こうした確認漏れにも注意が必要でした。

3. 自由度の高い計画は時間を奪う

今回の課題では、レストラン、結婚式場関連諸室、客室などの配置に大きな自由度がありました。

自由度が高いと、さまざまなプランを考えることができます。しかし、より良いプランを追求し始めると、時間はいくらあっても足りません。

実際に資格学校が公表した参考プランでも、レストランの設置階や客室の振り分け、建物規模は異なっています。それだけ複数の計画方法が考えられる課題だったということです。

そこで重要になるのが、自分にとって組み立てやすく、要求条件を満たせるプランを、いかに早く確定できるかという能力です。

そのためには、単に多くの課題をこなすだけではなく、同じ課題条件で複数のプランを検討し、計画しやすい方法を自分なりに身につけておくことが重要だと考えています。

4. 客室Bの記述・図示にかかる時間

今回の記述では、車椅子使用者用客室Bについて、バリアフリー、水回りの段差処理を含む構造計画、空調・換気設備などを説明する必要がありました。

さらに、平面・断面のイメージ図も求められました。

知識があっても、図を描き、説明を整理するには時間がかかります。エスキスに時間を使いすぎれば、記述や最終確認の時間が不足する。

今回の記述は、知識の難しさ以上に、時間内に表現し切ることが負担となったのではないでしょうか。

5. 2階のセキュリティと避難計画

今回の2階では、ホテル部門と式場部門の動線を整理し、セキュリティを確保する必要がありました。

しかし、動線を区分したことで安心してはいけません。

セキュリティのために設けた扉や区画が、避難経路に支障を与えていないか。各居室から有効な直通階段に至る歩行距離や重複距離が成立しているか。これらも確認する必要があります。

客室だけの階であれば比較的単純な避難計画も、複数の部門が組み合わさることで、確認する経路が増えます。

とはいえ、落ち着いて検討すれば対応できる内容だったと思います。

難しくてできないのではなく、時間に追われて、普段ならできる確認を落としてしまう。

今回の2階は、そうした見落としが生じやすい計画だったと考えています。

まとめ|良いプランより、重大なミスのないプラン

今回の試験を振り返ると、大きく2つの特徴が見えてきます。

一つは、自由度の高い計画と記述・図示の作業量が、受験生から時間を奪うこと。もう一つは、時間に追われることで、延焼ライン、防火設備、階段、避難計画といった重大な条件を見落としやすくなることです。

計画の自由度とエスキス・記述・図示の作業量により、最終確認の時間が不足し、重大なミスにつながる流れ
計画の自由度とエスキス・記述・図示の作業量により、最終確認の時間が不足し、重大なミスにつながる流れ

まとめの図を拡大して見る

良いプランを追求すること自体は悪いことではありません。しかし、要求条件を満たした合理的なプランが成立しているのであれば、そこからさらに工夫を重ねることに、どれだけ時間を使うべきでしょうか。

私は、今回の試験はプランの良し悪し以上に、重大なミスのない図面を完成させられたかどうかが、合否を大きく左右する試験だったと考えています。

実際の採点結果はまだ公表されていません。今回の検証が合格発表後の結果とどのようにつながるのか、引き続き注目したいと思います。